サンクコストバイアスという言葉は聞いたことがあっても、実際にどんな場面で起きて、なぜ私たちの意思決定に影響を与えてしまうのかは意外と理解しにくいものです。
本記事では、心理学や行動経済学で重要な概念である「サンクコストバイアス」を、初心者の方にもわかりやすいように丁寧に解説します。
日常生活からビジネス、恋愛、投資まで、気づかないうちに陥ってしまうこのバイアスを知ることで、より理性的で後悔の少ない判断ができるようになります。
サンクコストバイアスとは?
サンクコストバイアス(sunk cost bias)とは、「すでに支払ってしまって回収不可能なコスト(=サンクコスト)にとらわれて、合理的な判断ができなくなる心理傾向」のことを指します。
人は本来であれば、これから得られる利益・損失(将来価値)を基準に判断するのが合理的です。
しかし、「せっかくここまでやったのに」「お金を支払ってしまったのだから」といった気持ちが強くなり、結果的に損失が大きくなる判断をしがちです。
サンクコストの例
- すでに支払ったお金
- すでに使った時間
- 費やした労力
- 感情的な投資(愛情・期待など)
これらは戻ってこない“過去のコスト”であり、本来は意思決定に影響させるべきではありません。
それでも、私たちはつい「もったいない」気持ちを優先しがちです。
なぜサンクコストバイアスが起きるのか?
サンクコストバイアスは、以下のような人間心理が複合的に作用して引き起こされます。
損失回避の心理
行動経済学の研究によると、人は「利益を得る喜び」よりも「損をする痛み」のほうを強く感じます。
すでに失ったはずのコストであっても、「さらに損をしたくない」という心が働き、判断がゆがんでしまいます。
一貫性を保ちたい欲求
自分が選んだ行動や判断を否定したくない心理も影響します。
途中でやめることは「今までの判断が間違っていた」と認めることにつながるため、どうしても継続してしまいがちです。
努力の正当化
たくさんの時間やお金をかけたものほど、価値があると思い込みやすくなります(心理学で「努力の正当化」と呼ばれる現象)。
そのため、合理的に考えれば損失が大きいにもかかわらず、「ここまで頑張ったんだから」と続けてしまうのです。
日常生活でよくあるサンクコストバイアスの例
ここでは、身近なシーンでサンクコストバイアスがどのように働くのか、実例を交えて紹介します。
映画や本の途中でやめられない
「チケット代を払ったから」「買ったから」という理由で面白くない映画を最後まで観てしまう経験はありませんか?
しかし、すでに払ったお金は戻ってきません。本来は、「続けることで価値があるかどうか」だけを考えるのが合理的です。
食べ放題で無理に食べ続ける
食べ放題の料金を払ったから元を取りたい、という気持ちになるのも典型的なサンクコストバイアスです。本来は満腹になったらやめるべきなのに、つい頑張ってしまうことがあります。
使わないサブスクを解約できない
「せっかく加入したから」と思って、使っていないサービスを延々と継続してしまうケースは現代によくあります。冷静に考えれば「今後も使わないなら解約すべき」なのに、過去に支払った額が判断に影響してしまいます。
ビジネスにおけるサンクコストバイアスの危険性
サンクコストバイアスは、個人の生活だけでなく、ビジネスの意思決定にも大きな影響を与えます。
失敗したプロジェクトをやめられない
多くの企業で、進捗の悪いプロジェクトがずるずる続く理由の一つがサンクコストバイアスです。
「ここまで投資したのだから」「途中で引き返せない」という心理が働き、最終的な損失がさらに大きくなることがあります。
過去の設備投資にとらわれた判断
高額な設備を購入した場合、その投資額を正当化するために、合理的とは言えない運用を続けてしまう場合があります。
人材投資の継続
教育コストをかけた社員が成果を出さなくても、「せっかく育成したのだから」と手放せず、組織全体の最適化が遅れてしまうこともあります。
企業が健全に経営を行うためには、サンクコストを切り離した判断が欠かせません。
恋愛・人間関係におけるサンクコストバイアス
サンクコストバイアスは、実は恋愛関係や友人関係にも頻繁に現れます。
長年付き合った相手をなかなか別れられない
「ここまで付き合ったんだから別れるのはもったいない」
「時間を返してほしいけど、今さら別れたら全部無駄になる」
こうした気持ちはサンクコストバイアスそのものです。
本来重要なのは、「これからの未来に価値があるかどうか」です。
友情関係でも同じ構造が起きる
長く付き合ってきた友人であっても、関係が負担になったり、自分を苦しめたりする場合は本来距離を置く選択肢があります。
しかし、「これまでの歴史」を理由に関係を続けてしまうことがあります。
投資やギャンブルにおける典型例
投資やギャンブルの世界では、サンクコストバイアスが非常に強く表れます。
塩漬け株を手放せない
含み損を抱えた株を手放せず、「いつか戻るかもしれない」と持ち続けることがあります。
しかし、合理的には「今後の見込み」で判断すべきです。
ギャンブルで負けを取り返そうとして深追いする
「ここまでお金を使ったのだから」という心理が危険を高めます。
ほんとうは、過去の負けは取り返そうとする必要がなく、これ以上の損失を防ぐ判断が重要です。
サンクコストバイアスを回避するための方法
サンクコストバイアスは強力ですが、完全に克服できないわけではありません。以下の方法を意識することで、より合理的な判断に近づけます。
① 将来の利益・損失だけを基準に判断する
意思決定をするときは、「過去の費用」ではなく「これからの価値」に注目します。
例:
×「今まで5時間も勉強したからやめられない」
○「これ以上続けても効果がないならやめよう」
② コストを“回収不能”として割り切る
「過去の費用は戻ってこない」と事前に意識しておくことで、感情が判断を邪魔しにくくなります。
③ 第三者の視点を取り入れる
自分では冷静な判断ができないとき、他者に相談すると合理的なアドバイスを得やすいです。
④ やめる基準をあらかじめ決めておく
プロジェクトや投資など、継続の判断が難しい場合は「ここまで来たら撤退する」という基準を設定しておくとバイアスに影響されにくくなります。
⑤ 感情とロジックを分けて考える
「もったいない」「ここまでやったのに」など感情的な言葉が頭に浮かんだら、それはサンクコストの影響だと認識しましょう。
サンクコストバイアスとの向き合い方
サンクコストバイアスは、人間であれば誰でも自然にとらわれてしまう心理です。
決して「弱さ」や「甘さ」ではなく、人の脳が本来持っている特性なのです。
大切なのは、「バイアスが存在することを知ったうえで、より良い判断をするための工夫をすること」です。
私たちは完璧ではありませんが、意識的に判断することで無駄な損失を防ぎ、未来への選択肢を広げることができます。
サンクコストバイアスを理解することで、日常生活の質もビジネスの判断力も大きく向上します。
あなたのこれからの意思決定が、より合理的で納得できるものになるよう願っています。
えり損切大事!








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