IT業界で働く人やこれからエンジニアを目指す人にとって、「受託開発」と「SES」という言葉はよく耳にするものです。しかし、両者の違いや特徴について、なんとなく理解しているつもりでも、実は明確に説明できる人は少ないかもしれません。本記事では、受託開発とSES（システムエンジニアリングサービス）の違いをわかりやすく解説し、それぞれのメリット・デメリットや向いている人の特徴、契約形態のポイントなど、現場で役立つ知識を丁寧にご紹介します。
受託開発とは
受託開発とは、クライアント（発注者）からシステムやアプリの開発業務を「完成品」として請け負う業務形態です。簡単に言うと、依頼されたシステムやソフトウェアを、納期までに仕上げて納品する仕事です。
受託開発の特徴
- 成果物に責任がある
受託開発では「完成品」として納品するため、バグや動作不良があれば責任を持って修正対応します。 - 請負契約が基本
請負契約では、納品する成果物の仕様・納期・報酬などが事前に決められています。 - 自社内で作業することが多い
受託開発のエンジニアは、自社オフィスやリモートで作業するケースがほとんどです。 - プロジェクトごとに契約
「新規ECサイト開発」や「既存システムのリニューアル」など、プロジェクト単位で契約が締結されます。
受託開発の契約形態
受託開発は一般的に「請負契約」と呼ばれ、契約時点で業務範囲や納期、金額、完成物の仕様が明確に決められます。成果物の納品責任が発生するため、トラブル時には損害賠償のリスクもある一方、明確な成果が求められる分、評価がしやすいとも言えます。
SES（システムエンジニアリングサービス）とは
SESは、システムエンジニアリングサービスの略で、技術者（エンジニア）がクライアント企業に常駐して業務を行う形態です。人材の派遣と似ていますが、法律上は「準委任契約」となります。
SESの特徴
- エンジニアがクライアント先で作業
SESでは、エンジニアが発注先企業のオフィスに常駐し、クライアントの指揮命令のもとで作業します。 - 業務の成果物責任は発生しない
SESは、作業そのものに対して報酬が支払われるため、「このアプリを作って納品してほしい」という請負契約とは異なり、業務完了までの「労働時間」に対して報酬が発生します。 - 準委任契約が主流
SESでは「成果」ではなく「作業」を提供する契約のため、業務の完了や成果物の納品義務はありません。 - 短期から長期まで契約期間はさまざま
プロジェクトの期間によって、1ヶ月から1年以上の常駐案件まで、契約期間は案件によって異なります。
SESの契約形態
SES契約は「準委任契約」と呼ばれ、エンジニアがクライアントの指揮命令で働きます。労働派遣と異なり、指揮命令権がSES企業側に残る必要がありますが、実態としてはクライアントのもとで働くことが多く、派遣との線引きが難しい場合もあります。
受託開発とSESの違いを表で比較
| 項目 | 受託開発 | SES |
|---|---|---|
| 契約形態 | 請負契約 | 準委任契約 |
| 作業場所 | 自社（リモート含む） | クライアント先が多い |
| 成果物責任 | あり（納品責任あり） | なし（作業責任のみ） |
| 報酬の対象 | 成果物（完成品） | 作業時間（工数） |
| 指揮命令系統 | 自社のプロジェクトマネージャー | クライアントの担当者 |
| トラブル時の責任 | 損害賠償リスクが高い | 基本的に責任なし |
| 契約の柔軟性 | 業務範囲が明確で変更に弱い | 柔軟な業務範囲に対応可能 |
それぞれのメリット・デメリット
受託開発のメリット
- 成果物を自社の実績にできる
開発実績として社外にアピールできるため、会社の信頼度向上につながります。 - スケジュールや作業場所を自社でコントロールしやすい
チームビルディングや作業の進め方を自社内で調整可能です。 - 利益率が高くなりやすい
優れたマネジメントがあれば、効率的に利益を出しやすいです。
受託開発のデメリット
- 要件変更リスク
クライアントの要求変更により、追加工数や納期遅延が発生することがあります。 - 納品物の品質責任
バグや品質問題が生じた場合、損害賠償のリスクを負います。
SESのメリット
- 安定した売上が得やすい
作業時間に応じた報酬のため、案件の継続があれば売上が安定します。 - エンジニアが様々な現場経験を積める
多様なクライアントの業務を経験でき、スキルアップにつながります。 - プロジェクトの途中で業務内容を調整しやすい
案件の途中で業務範囲が変わることも多く、柔軟な働き方ができます。
SESのデメリット
- 自社の実績としては残しにくい
クライアント先の業務の一部として参加するため、開発実績として公表しにくいことがあります。 - クライアント先での人間関係や環境に左右されやすい
常駐先の環境に順応する必要があり、働き方や人間関係に悩むこともあります。
IT業界での選択｜どちらが向いている？
受託開発が向いている人
- 自社でチームを作り、ものづくりに集中したい人
- クライアントの要望に合わせて、全体設計からリリースまで関わりたい人
- 成果物として達成感を感じたい人
SESが向いている人
- さまざまな現場で多様な経験を積みたい人
- 新しい技術や業務知識を短期間で吸収したい人
- 柔軟な働き方や勤務地に興味がある人
よくある質問（FAQ）
Q. SESは派遣と何が違うの？
SESは「準委任契約」で、業務指示の権限がクライアントに移りにくい形となっています。一方、派遣は「労働者派遣契約」となり、法的な規制がより厳格です。SESはエンジニアが「技術サービス」を提供し、派遣は「労働力」を提供するといった違いがあります。
Q. 受託開発は在宅ワークできる？
はい、受託開発は成果物ベースのため、リモートワークや在宅での業務も可能です。
Q. SESから受託開発へキャリアチェンジはできる？
可能です。SESで現場経験を積んだ後、受託開発企業へ転職するエンジニアも多くいます。ただし、受託開発ではチームでのマネジメント能力や、仕様設計のスキルも重視されます。
まとめ
IT業界で働くエンジニアにとって、受託開発とSESはキャリア選択の大きな分岐点です。どちらにもメリット・デメリットがありますが、自分がどのような働き方や成長を目指したいのかを考えたうえで選ぶことが大切です。SESで幅広い経験を積みたいのか、受託開発で「ものづくり」に没頭したいのか。この記事が、みなさんのキャリアのヒントになれば幸いです。
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