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グルーのパラドックスとは?科学哲学が問いかける予測の不思議

科学は「未来を予測する力」を持っています。

しかし、その予測は本当に合理的なのでしょうか。20世紀の哲学者ネルソン・グッドマンが提起した「グルーのパラドックス(Goodman’s new riddle of induction)」は、私たちが日常的に行っている「帰納推論(過去から未来を推測すること)」の根拠を根底から揺るがす問題です。
一見すると単なる言葉遊びのようにも思えるこのパラドックスですが、科学的な予測の正当性、さらにはAIやデータ分析にも関わる深い問いを投げかけています。この記事では「グルー」という奇妙な概念を通じて、このパラドックスをわかりやすく解説していきます。


目次

帰納法とその問題点

私たちは日常的に「過去にそうだったから、未来もそうだろう」と考えます。例えば「今まで見たエメラルドはすべて緑色だった。だから、これから見つかるエメラルドも緑色に違いない」と推論します。これが帰納法です。

しかし、デイヴィッド・ヒューム以来、「帰納には論理的な保証がない」ということは知られていました。過去の経験が未来にも当てはまるとは限らないからです。グッドマンはこの帰納の問題をさらにややこしくする新しいパラドックスを提示しました。それが「グルーのパラドックス」です。


「グルー」とは何か

グッドマンは次のような奇妙な性質を定義しました。

  • グルー(grue)
    「ある時刻 t 以前に観察されたものが緑であるとき、そして t 以降に観察されたものが青であるとき、その対象は『グルー』である」

つまり、「今までは緑色だったが、未来からは青色になる」という性質を一つの概念としてまとめたのが「グルー」です。


パラドックスの成立

例えば、時刻 t を「2100年1月1日」とします。

  • 2025年の今、私たちが見るエメラルドはすべて緑色です。
  • したがって「すべてのエメラルドは緑である」と帰納できます。

しかし同じ事実を「グルー」という概念で表すとこうなります。

  • 2025年に観察したエメラルドは「グルー」である(実際に緑だから)。
  • よって「すべてのエメラルドはグルーである」と帰納できます。

すると未来の2100年以降には、エメラルドは青色でなければならなくなります。
緑色であることも、グルーであることも、どちらも「過去の観察事実」に基づいて正しく帰納できるのに、未来の予測はまったく逆になってしまうのです。


なぜ混乱が起きるのか

このパラドックスの核心は「どの言葉(概念)を使うか」によって帰納の予測が変わってしまう点です。

  • 「緑」という概念を使えば未来も緑。
  • 「グルー」という概念を使えば未来は青。

どちらも過去の観察と矛盾せず、論理的には正しい帰納なのに、まったく異なる予測が導かれるのです。


科学と「自然な言語」

グッドマンは、この問題から「帰納に合理性を与えるのは論理だけではない」と指摘しました。つまり、私たちが「緑」を使って予測するのは、単に「緑」という言葉が自然で理解しやすいからです。

もし人類の文化や科学の歴史が違っていれば、「グルー」のような概念が日常的に使われていたかもしれません。その場合、未来の予測は「エメラルドは2100年以降は青色になる」とされていた可能性があるのです。


AIやデータ分析との関係

この問題は単なる哲学的な遊びではありません。AIや機械学習も「過去のデータから未来を予測する」という帰納に基づいています。
例えば、あるアルゴリズムが「緑」という特徴量を使うのか、「グルー」のような複雑な特徴量を使うのかによって、未来予測が大きく変わってしまう可能性があります。

つまり、「どの概念で世界を記述するか」という選択が、科学的予測やAIの判断に大きな影響を与えるのです。


まとめ

  • グルーのパラドックスは、帰納法の正当性を揺るがす問題です。
  • 「緑」という概念で未来を予測するのか、「グルー」で予測するのかによって結果が変わります。
  • 科学は単なる観察の積み重ねだけではなく、「どの概念が自然か」を選ぶ文化的・人間的な判断を含んでいます。
  • AIやデータ分析においても、このパラドックスは「特徴量の選び方」という重要な問題につながります。

科学やAIの予測は万能ではなく、言葉や概念の選び方に大きく依存している。これがグッドマンが残した深い問いなのです。

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