マンションやビルのオフィス移転、テナント入居、賃貸借契約時など、不動産や建築分野でよく耳にする「A工事」「B工事」「C工事」。初めてこの言葉を聞いたときは「何が違うの？」と疑問に思う方も多いでしょう。この記事では、それぞれの工事の意味や役割、費用負担の違い、具体的な事例を交えながら、初心者でも理解しやすいよう丁寧に解説します。
A工事・B工事・C工事とは何か？
まず、A工事・B工事・C工事は、オフィスビルや商業施設などで内装工事や設備工事を行う際、**「誰が工事を行い、誰が費用を負担するか」**を区別するために使われる業界用語です。
それぞれの定義や特徴について詳しく見ていきましょう。
A工事：貸主（オーナー）が行う工事
特徴
A工事とは、建物の貸主（オーナーや管理会社）が自ら行い、その費用もオーナー側が負担する工事です。主に建物全体の基本的な構造や共用部分、ビル全体の設備、法的に必要な工事が該当します。
主な工事例
- エレベーターや共用廊下の改修
- 空調・給排水設備の基幹部分の設置や補修
- セキュリティ設備の設置（共用部のオートロック等）
- 外壁や屋根、建物全体の防水工事
- 避難経路の確保や非常用設備の設置
具体例
たとえば、テナントが新たに入居する際に「共用部の天井や壁の修繕が必要」「ビル全体の空調設備を更新する」という場合は、A工事となり、オーナーが費用を負担します。
B工事：テナントが負担し、オーナー指定業者が施工する工事
特徴
B工事は、テナント（借主）が費用を負担し、工事自体はオーナーや管理会社が指定した業者が行う工事です。建物の安全性や設備の一貫性を保つ必要がある箇所、専門性や制限が必要な場合に適用されます。
主な工事例
- 空調設備のテナント専用部分（オフィスフロアの個別空調の設置や変更など）
- 電気配線の主幹部分の分岐工事
- 防火区画の開口部に関する工事
- ビルの管理システムに関連する設備工事（入退室管理システムの接続等）
具体例
オフィス入居時、「自社のフロアだけ冷暖房の増設が必要」だが、ビル全体の空調設備と連動しているため、オーナー指定の業者に依頼し、その費用はテナントが負担するケースがB工事に当たります。
C工事：テナントが自由に発注・負担する工事
特徴
C工事は、テナントが自分で工事業者を選び、内容も自由に決め、費用も自分で負担する工事です。オフィスや店舗のレイアウト・内装デザイン、備品の設置など、テナント専有部分の装飾や設備が該当します。
主な工事例
- パーティション設置や間仕切り工事
- 床・壁・天井の内装仕上げ
- コンセントや照明器具の増設
- オフィス家具の配置や造作棚の設置
- LAN配線や電話配線工事
具体例
「会議室をガラス張りにしたい」「社名ロゴをエントランスに設置したい」など、テナント独自の要望に基づく内装工事はC工事に該当し、好きな業者に発注することができます。
A工事・B工事・C工事の違いをわかりやすく比較
下記の表にまとめました。
| 工事区分 | 発注者 | 施工者の指定 | 費用負担者 | 主な対象工事例 |
|---|---|---|---|---|
| A工事 | オーナー | オーナー | オーナー | 共用部の設備、建物基幹部分 |
| B工事 | オーナー | オーナー | テナント | 個別空調、主幹設備の分岐 |
| C工事 | テナント | テナント | テナント | 内装・レイアウト、照明・備品設置 |
それぞれの工事が区分される理由
A工事・B工事・C工事という区分がある理由は、建物全体の安全性や機能性、管理効率を保つためです。
たとえば、建物の構造や重要なインフラ設備に関わる工事をテナントごとに自由に行ってしまうと、ビルの安全性や防災機能に問題が生じる可能性があります。そのため、A工事やB工事のように、オーナーが主導し、一元的に管理する必要があるのです。
一方、C工事については、テナントの使い勝手やデザインの自由度を尊重するため、テナント側に委ねられています。
どの工事がどこまで含まれるのか？判断基準と注意点
工事区分の判断基準は物件や管理会社によって異なることも多く、契約時に「どこまでがA工事で、どこからがB工事・C工事なのか」を明確にしておくことが大切です。
実際、同じような設備工事でも、「電源の新設はC工事」「分電盤から主幹への接続はB工事」と細かく区分されることもあります。
注意点：
- 見積もりの際、どの部分がどの工事に当たるのか、必ず確認しましょう
- オフィスの原状回復時、C工事で設置したものはテナント負担で撤去が必要
- B工事はオーナー指定業者のみが施工可能なため、費用が割高になるケースも
具体的な事例で理解を深める
事例1：新規オフィス入居の場合
【A工事】…共用部のトイレや廊下、ビル空調システムの更新
【B工事】…オフィスフロアの空調追加や、ビルの電気系統に直接関わる配線工事
【C工事】…会議室の設置、執務スペースのパーテーション、内装デザイン
事例2：テナント退去・原状回復
C工事で設置した内装や造作棚は、退去時にテナントが自費で撤去・原状回復する必要があります。A工事やB工事で行われた設備については、基本的にオーナーの所有となるため、テナントが費用負担することはありません。
賃貸借契約時のポイント
賃貸借契約時には、「工事区分表」や「工事項目リスト」などを必ず確認しましょう。特にB工事は費用が高額になる場合も多いので、事前に見積もりを取得し、予算計画を立てることが重要です。
また、テナントが「自社デザインの内装にこだわりたい」場合、C工事で自由に設計できる範囲とB工事で制限がある部分をよく把握する必要があります。
まとめ
A工事・B工事・C工事の違いを理解しておくことは、オフィス移転やテナント入居時にとても重要です。
「誰が工事をするのか」「誰が費用を負担するのか」をしっかりと押さえ、無駄な出費やトラブルを避けるためにも、契約時や見積もりの際には細かく確認しましょう。
特にB工事は、自由度が低い分、費用が割高になったり、納期が長くなることもあるので注意が必要です。C工事については、テナントの使い勝手やイメージを重視しながら、将来の原状回復費用も見据えて計画すると良いでしょう。
ビルや物件ごとに工事区分の考え方が違う場合も多いので、困った時はオーナーや管理会社、専門の内装業者に相談することをおすすめします。
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