物語を進めるたびに「選択」が現れ、プレイヤーの行動次第でエンディングが変化する──。そんなゲームや小説を一度は体験したことがあるのではないでしょうか。
それが「マルチエンディング(multi ending)」と呼ばれる仕組みです。近年ではゲームだけでなく、映画やアニメ、小説などでも採用されることが増え、エンターテインメントの表現手法として注目を集めています。
本記事では、マルチエンディングの意味や歴史、代表的な作品例、そしてその魅力や制作上の工夫について、初心者にもわかりやすく解説します。
マルチエンディングとは?
マルチエンディングとは、作品の結末が一つではなく、複数存在する構成を指します。
読者やプレイヤーの選択、行動、あるいはスコアや達成度などによって物語の結末が変化するのが特徴です。
マルチエンディングの定義
「マルチ(multi)」は「複数の」「多様な」という意味であり、「エンディング(ending)」は物語の結末を指します。
つまり、「マルチエンディング」とは「複数の結末を持つ作品」という意味になります。
通常の物語では、作者があらかじめ決めた「一つの結末」に向かって展開しますが、マルチエンディングではプレイヤーの選択によって「バッドエンド」「トゥルーエンド」「ハッピーエンド」など、さまざまな終わり方が用意されています。
マルチエンディングの起源と歴史
マルチエンディングの考え方は、ゲーム文化の発展とともに広がりましたが、その原型は実は文学の世界にも存在していました。
文学におけるマルチエンディングの始まり
最初期の例としてしばしば挙げられるのが、1970年代に流行した「ゲームブック(アドベンチャーブック)」です。
これは、ページの最後に「この道を進むならP.30へ」「引き返すならP.45へ」といった選択肢が書かれ、読者が選択によって物語の展開を変えるという形式でした。
この形式が、現在のマルチエンディングの基礎となりました。
ゲームにおけるマルチエンディングの普及
1980年代〜90年代にかけて、家庭用ゲーム機やPCゲームの普及とともに、マルチエンディングはゲームデザインの一要素として広まりました。
代表的な初期作品としては、以下のようなタイトルがあります。
- 『ポートピア連続殺人事件』(1983年・エニックス)
- 『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』(1990年・エニックス)
- 『真・女神転生』シリーズ(1992年〜・アトラス)
- 『クロノ・トリガー』(1995年・スクウェア)
これらの作品では、プレイヤーの行動や選択肢によって、複数の結末が用意されており、プレイごとに異なる体験を提供しました。
マルチエンディングの種類と構成
マルチエンディングには、作品の構造や演出意図によっていくつかのタイプがあります。
代表的な3つのパターンを紹介します。
1. 分岐型マルチエンディング
最も一般的なタイプです。
物語の途中に分岐点があり、選択肢や行動によって異なるエンディングに進みます。
例えば「誰を助けるか」「どのルートを選ぶか」といった選択で、結末が大きく変化します。
例:
- 『シュタインズ・ゲート』
- 『風来のシレン』シリーズ
- 『Fate/stay night』
2. 収束型マルチエンディング
途中では複数の分岐があるものの、最終的には「共通の結末」に向かって収束していくタイプです。
異なるルートを経ても、最後は同じ真実やエンディングに辿り着く構成が多いです。
例:
- 『Detroit: Become Human』
- 『ライフ イズ ストレンジ』
- 『ゼノブレイド』シリーズの一部ルート
3. トゥルーエンド型マルチエンディング
複数のエンディングがある中で、「真の結末(トゥルーエンド)」が存在するタイプです。
プレイヤーは複数のエンディングを見たうえで、特定の条件を満たすと「真実の物語」に到達することができます。
例:
- 『NieR:Automata』
- 『ゼロ エスケープ』シリーズ
- 『UNDERTALE』
マルチエンディングの魅力とは?
マルチエンディング作品が長年支持され続ける理由は、その「体験の多様性」にあります。
以下のような魅力が挙げられます。
1. 自分の選択で物語を動かす没入感
プレイヤーが選んだ行動が物語に直接影響するため、「自分がこの物語を動かしている」という感覚を得られます。
この没入感は、単線的なストーリーでは得にくいものです。
2. 何度もプレイしたくなるリプレイ性
異なる選択を試すことで新しい展開やキャラクターの一面が見られるため、「もう一度やってみよう」と思わせる力があります。
これにより、作品の寿命やファンコミュニティの活性化にもつながります。
3. プレイヤー同士の語り合いが生まれる
SNSや掲示板などで「自分はこういうエンディングだった」「あの選択をしたら全然違う展開になった」と語り合う楽しみがあります。
マルチエンディングは、共有体験としての魅力も大きいのです。
マルチエンディング制作の難しさ
一方で、マルチエンディングは制作側にとって非常に手間のかかる構成でもあります。
1. 膨大なシナリオ分岐の管理
複数のルートを整合性を保ちながら設計するのは容易ではありません。
特に、プレイヤーの選択が後半まで影響するタイプでは、シナリオ全体の整合性を維持する工夫が必要です。
2. プレイヤーの満足度バランス
どのルートも納得感のある展開にしなければ、「このエンディングは外れだった」と感じさせてしまう可能性があります。
全ルートに意義を持たせる設計が求められます。
3. コストと開発リソース
単一エンディングの作品と比べて、制作ボリュームが数倍に膨らむこともあります。
そのため、最近ではAI技術やシナリオ管理ツールを活用し、効率的に複数エンディングを設計する試みも増えています。
ゲーム以外のマルチエンディング作品
マルチエンディングはゲームだけの専売特許ではありません。
近年では映画、ドラマ、アニメなどでも「選択式」や「分岐型」の作品が登場しています。
インタラクティブ映画
Netflixの『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』は、視聴者がリモコンで選択肢を選ぶことで物語が分岐する作品として話題になりました。
このように、視聴者の選択がリアルタイムにストーリーを変える形式は、今後さらに広がると考えられています。
アニメ・小説・Web作品での展開
最近ではWeb小説サイトなどでも、「読者投票で次の展開を決める」「分岐ごとに異なる章を投稿する」といった形式が人気を集めています。
これにより、読者参加型の物語体験が可能になりました。
マルチエンディングの未来
AI技術やインタラクティブメディアの進化により、マルチエンディングの可能性はさらに広がっています。
例えば、プレイヤーの行動ログや心理状態を分析して、AIがリアルタイムにエンディングを生成するような「動的マルチエンディング」も研究されています。
今後は、一人ひとりの体験が完全に異なる「パーソナライズド・エンディング」の時代が訪れるかもしれません。
まとめ:マルチエンディングは「選ぶ物語」の象徴
マルチエンディングとは、プレイヤーや読者の「選択」によって物語が変わる仕組みです。
その起源はゲームブックにあり、現在ではゲーム、映画、アニメ、Web小説など多岐にわたるジャンルで活用されています。
マルチエンディングが持つ最大の魅力は、「自分が物語の一部になる体験」。
一度きりでは終わらない深い没入感が、世界中のファンを惹きつけてやまない理由です。
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